(前略)”いい人”と、自分で思い込んでいる人がある。「自分は生まれてこの方、悪いことをしたことがない」という人がいます。「私はいい人間なんだ、仏さまも拝むし、神さまも拝む、いい人間なんだ。それなのに、うちの嫁はなんという人だろう。お膳もろくに片付けない、年中外へ出てばかりいる……」、こういう姑はたくさんいます。
自分だけ偉くて、自分だけ信仰深くて、自分だけいいんです。そして他の人は、みんな自分より偉くないように思っています。こういう人はずいぶんいます。
これはとんでもないことです。肉体の自分というものがいいと思っている想い、悪いことをしたことがないと思っている想いは、もうすでに悪いのです。
高慢の一番始末におえない想いなんです。
こういう想いを持っていると、どうしても相対的にものを見る。(中略)
自分が一番いいと思っているんだから、他人が悪く見えてしょうがないのです。他人が悪く見えて、他人にいちいち小言を言うような、その心がもう高慢でだめなのです。
人間はみんな平等なんです。生命において平等なんだから、肉体の人間が相手の肉体の人間に小言を言えるわけがない。
姑さんだから、お母さんだからといって、嫁さんや娘さんに文句を言えるわけがないのです。
文句を言うのは、神さまのみ心において、神さまが言わなければならない。
神さまが言わない以上は、人間が文句を言えた義理じゃないのです。
自分だって悪いんだから……。
それを自分が一番いいと思っている。(つづく)
五井昌久著『空即是色―般若心経の世界』より