日本よ 私の祖国よ
あなたの名の中に私は生れ育ち
あなたと共に苦しみ喜び
そして敗戦と云ふ悶えの中で
真実のあなたと真実の私とを知つた
隠されてゐたあなたの真実
隠れてゐた私の真実
今の私はその真実をはつきり知つてゐる
緋色のカンナ 紫ダリヤ 柔かな葵の花片
さうした花々を咲かせながら
私の狭庭にもそろそろ秋風が訪れ
庶民のかなしみを漂はせはじめる
私はさうした狭庭に立ち
たそがれ近い陽光の中で
今もあなたの事を思ひつづける日本よ 私の祖国よ
私はあなたを心を籠めて愛する者
あの大空の無限の極まで
此の大地の果ての果てまで
あなたの名の刻まれてゐた
古い古い歴史を私のいのちは記憶してゐる
さうした遠い記憶の中で
光を全く一つにした太陽とあなたが
宇宙の未来を輝やかさうと
誓ひ合つてゐた尊い言葉が
今の出来事のやうに想ひ出される
高天原の古事記を嗤い天孫降臨の神事を嗤ふ
愚かなる物質主義者たちよ
御身たちは自らのいのちを傷つけ痛めてゐる事を知らない
御身たちは地球の黴 鉱物の進化物
やがて日本と云ふ名のもつ
偉大なる真実を知つた時
御身たちの迷ひは一夢のごとく消え果てるに違ひない
日本よ 私の祖国よ
今あなたが受けてゐる
そして私たちが甘受してゐる数多くの屈辱は
あなたの真実がより輝やかに知られる為
神の栄光がより厳そかに地上に輝く為のもの
私はたそがれの狭庭に立つて
さうした神の秘め事の
展けゆく大荘厳を心の中に画いてゐた
五井昌久著『ひゞき』より