(前略)ところで、那智の滝の話ですが、飛竜権現様の折角のおまねきなので、写真の方の案内で、早速出かけることにしたのでした。
私の旅行はどこへ行っても、必ず会員さんとの対面や講演会がつきものですが、今回だけは、全く那智の滝だけを目的として出かけたわけなのです。
紀伊勝浦の中ノ島というところで一泊したのですが、その夜中から朝の9時頃まで、三月だというのに、まるで台風襲来のような激しい風雨で、常識では、この海の中の離れ小島の旅館から、船に乗って岸につくのはとてもおぼつかない、と思われるほどでしたが、九時過ぎた頃、風雨ともにぴたりと止んで、みるみる青空が広がり、島山の緑も生き生きとし、岩山もすっかり洗われて、なんともいえぬ、さわやかな風光になってまいりました。
私の霊眼には、昨夜来の風雨をもたらしたのは、私たちを迎えるための那智の主神を助けて働いている黒竜の浄めの働きだったのが、うつりました。私の神社や霊所巡りには、毎回こういう浄めの働きが行なわれるので、案内の方も娘たちも、またお浄めがありましたねと、当然のことのようにいっていました。
那智につきますと、大きな杉の木立も霊気に充ちております。石段を昇って、落下する滝の前に立つや、飛竜権現の竜体が、白髪白髭の老翁の姿に変わり、破顔して私を迎えているのです。そしてその後に、勝浦で風雨の浄めをした黒竜の艶(あで)やかな姿がありました。
私は印を結び、拍手(かしわで)を打って、神霊との交流を終え、那智の滝を辞してきたのでしたが、滝行半ばで亡くなった人々や、滝に願を掛けている人々が、私の霊体の中で、しばらく浄めの行をしておりましたが、やがて皆浄まって、私から離れてゆきました。
案内してくれた人の話では、何度でもこの滝にまいっているけれど、今日のように水量が多く、雄大な滝の姿は見たことがないということでした。
ここで想い出しましたのは、ナイアガラ瀑布の大白竜のことでした。あの大白竜の使命は、アメリカ、カナダを中心に、地球そのものを浄める働きをもっておりましたが、この那智の滝の竜神の働きは、個人個人の魂魄の浄めを主にして働かれているということで、全く行場としては、最適なところであるのは確かです。(後略)
五井昌久著『人類の未来-物質文明より霊文化へ』より