私は今日も文字を書く
一という字を書く
筆はたっぷり墨をふくむ
一という字は後にも先にも
ごまかしようのない字だ
紙の上に筆を下した時に一の姿が定まる
私は無心に筆を下す
一瞬にして一の字は紙の上に現われる
一の中に天地が消える
私もあなたも融けこんでしまう
一という字が大宇宙そのままに
そこに現われている
一という字は私が書きながら
私が書いたものではない
太初からあって永遠に在る
すべてのすべてであって
まだすべてが現われぬ姿
最大であって最小のもの
一の文字の中に書いた私は消え
そして又現われる
一の中に無限のひびきがかくされ
私たちもその中で生きている
私は今日も一という字を書く
五井昌久著『純白―五井昌久詩集』より