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母親のこと

聖ヶ丘道場でのご法話である。

「夏になると、うちの母親は氷水が好きなんで、よく飲むんです。
ところが私は氷ものは大嫌いでしょ。
そうすると、「後生だよ、お前、一寸、いっぱい飲もうよ」って言うんです。
しょうがないから一緒に店に入る。
いっぱいだけでは足りないんだね。
「二杯飲んでいいだろう」なんて私に聞いて「ああいいよ」と言うと嬉しそうに二杯目の氷水を飲んでいました。
母親というものは年をとると、子供に甘えるんですね。
その時、そんな母親を見ていて可愛いなあ、と思いました。
そうすると可愛くて可愛くて、涙が出てきた……」

そこまでくると、先生は黙ってしまわれた。
あれと見上げると涙を流しておられたのである。
しばらくの間、道場のあちらこちらから、すすり泣きの声が聞こえていた。

高橋英雄編著『如是我聞―五井先生の言葉』より